モスクワの人々

17.11.09

物乞いの人たち

吹雪の中を座り込んで物乞いする老婆を何度も見た。ビニールの買い物袋を敷き、目の前に聖母などを描いたイコンを置き、通り過ぎる人たちに向かって何度もひれ伏している。無言のこともあれば何かしゃべっているときもある。イコンの隣には箱や小皿があり、カペイカばかりの硬貨が入っている。ルーブル硬貨が入っていることはほとんどない。

ただでさえ歩いていないと凍えそうなのに、どうして物乞いの老婆は座り続けていられるのだろう。そのことをロシア人に聞いても、「さあ?」と気のない返事しか返ってこなかった。

物乞いの種類は多種多様だ。
赤子を抱いた「擬似母子」。子どもは「貸与」されたもので、泣きもぐずりもしないのはクスリで眠らされているからだという。足や腕を切断している男性も物乞いに多い。私のアパート至近の地下道では、いつも同じ物乞いの人が「出勤」していて、顔を覚えられてしまった。老男女のペアが賛美歌のような歌を声を張り上げて唄っていたり、ムシロのようなものに座り込んでいるだけの物乞いや、犬にやるエサを恵んでほしいと訴える人などなど。「ドーブリェ・リュージ、パマギーチェ」で始まる決まり文句は、「右や左の旦那様・・・」に当たるだろうか。通りすがりの人(中年以上の女性が多い)は、しばしば小銭をめぐんでいる。施しを受けた物乞いは、小銭を入れてくれた人に向かって、十字を切ったり深々とお辞儀をする。
一方、車の窓を強制的に拭いて金をせびるストリートチルドレンは、積極的物乞いといえよう。

「擬似親子」の例にあるとおり、モスクワの物乞いは裏社会でかなり「組織」されている。これ自体別に驚くことはない。なぜなら、中国などでも物乞いしていた両足切断の男性が、「メルセデス」の送迎を受けていたりするからだ。問題は、社会の底に転落した人が、どのように「組織されていくか」である。一度組み込まれたら、おそらく抜け出すことは難しいだろう。人間を食い物にする恐るべきビジネスだ。それとも、物乞いをしている本人は、すでに苦役と感じる感覚が麻痺しているのだろうか。

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01.11.09

モスクワのエスカレーター

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エスカレーターで、関東は左に立ち右側は追い越し用、関西では右に立ち左側を追い越し用としているようだが、これに基づけばモスクワのエスカレーターは関西方式が採用されている。

地下鉄のエスカレーターは、長くて傾斜があってしかも速度が速い。慣れるまでは、エスカレーターに乗るのもタイミングが合わずに苦労する。ましてや、これを駆け下りたり駆け上ったりするのは安全上勧められない。しかし私も最後は慣れて、よく「駆け下りて」いた部類なのであまりえらそうなことは言えない。

エスカレーターはたまに停止する。上りに乗っているときは影響はそれほど大きくないが、下りに乗っている場合、運が悪ければひっくり返る。エスカレーターの運用は、エスカレーターの始点に座っているおばさんの手中にゆだねられている。おばさん(地下鉄職員)は、常に人々がおとなしくエスカレーターを利用してるか、無法者がいないかどうか監視している。ときどき、コインを手すりに落として遊んだりする若者をヒステリックに注意する。そうかと思うと、まったくよそを向いている怠慢なおばさんもおり、その周りの空気は「ソ連」そのものだ。

地下鉄のエスカレーターは、定期的にオーバーホールされている。これこそ古いものを長く使うロシアの美点であるが、むき出しになった大きな歯車を見ると、その動力機構のアナログさに関心したりびっくりしたりする。

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20.09.09

ロシアイコン

ロシア正教で象徴的なものは、教会内部に配置されたおびただしいイコン(聖像)であろう。

「アイコン」の語源ともいうべきイコンは、教会だけではなくロシアの一般家庭でも置かれている。一般に東側の四隅上方に棚を作って祀るのであるが、まるで日本の神棚のように見える。もちろん、無神論者もいるのだからイコンを置かない人も多い。

イコンは必ず税関でイチャモンをつけられて、へたすると没収の憂き目に遭うので私は写真のようなレプリカを購入。イコンは「ウラジーミルうの聖母」など有名な構図があるが、この聖像の説明は古式キリル文字で書いてあるためよくわからない。

Icon

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07.09.09

モスクワの教育事情

新学期が始まって1週間。ロシアも日本以上に少子化が進んでおり、離婚も多いせいかステップファミリーや片親世帯もこれまた多い。経済状況が好転してからわずかに出生率が上がったというが、これも瞬間的な現象だろう。

私の知り合いのロシア人家庭は、たいてい一人っ子。片親家庭も多い。ソ連時代に生まれた彼らは、おぼろげながらソ連の暮らしを知っている。しかし、今のティーンエイジャーたちはソ連時代の閉塞感や耐久生活をほとんど知らない。

そのせいか、今、親となっているロシア人は子どもへの教育費を厭わないような気がする。たとえば私のパレフの先生は、娘が一人いたが、習い事の数は日本の子どもと変わらないほどだった。英語、絵画、ピアノ、スキーなど。学校の宿題もハンパじゃないほど多いので、親が宿題の手伝いをする。

また、子どもを一人で登校させることに抵抗がある親は、中等以上になるまで送り迎えする。塾というシステムはないので、補習はすべて「家庭教師」。増え続ける教育費を稼ぐため、パレフの先生はいつも生徒の増員を求めており、生徒たる私たちがなぜかそれに応えるべく奮闘していた。謝礼の値上げをされるより、生徒を増やした方が私たちの負担が増えないからなのだが、けっこうたいへんだった。

ちなみに、ロシアの学校でも都会ではいわゆる「特別学校」という試験を受けて入学する学校がよいとされる。地元の学校は所得の低い家庭の子ども、成績のよくない子ども、素行のよくない子どもが行くところというイメージがある。実際、教師の給与はべらぼうに安く奉職意欲が落ちている。悪い教育環境のために、しばしば識字率の低下なども指摘されている。

 

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26.08.09

モスクワのアパートでネット接続

最近、モスクワでもWiMAXサービスが開始されたようである。ここ数年のインターネット接続環境の向上はめざましい。

私が初めて自宅アパートでネット接続をしたのは12年前だが、当時はまだまだダイアルアップが主流だった。なにしろ市内通話がほとんどタダみたいなモスクワ市電話局(МГТС)提供のサービスだから、ダイアルアップでつなぎっぱなしでもまったく課金の心配をしなくてよい。そのかわり接続状況は不安定で、いつのまにか切れていたり、雨が電話線に入り込もうなら電話そのものが即つながらなくなる事態が発生した。

2003年ごろから携帯電話キャリアМТСが「ストリーム」というブロードバンドサービスをはじめ、先進的なモスクワネチズンがこのサービスに飛び乗った。私は最後までダイアルアップ接続だったので、ストリームが果たしてどのくらいの速さを実現していたかわからないのだが、同様なブロードバンド接続をしている知り合いの話によると、頻繁に「つながらなくなる」とのことだ。ちなみにこの知人は有線LANを使用している。
たしかに居住するアパートによっては、電話回線が適していなかったり、古すぎてブロードバンド工事ができないアパートだったり、いろいろ問題があるようだ。

ゼムフィーラの歌の中に「Webgirl」というのがあり、その中でダイアルアップの効果音が出てくる。この曲を聴くと、当時のネット環境がなんとなく懐かしくなったりするのである。

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15.06.09

ロシア人のパソコン入力

モスクワにいる間、ブラインドタッチでロシア語を入力するロシア人を見たことは一度もなかった。 ロシア語のキーボードは「C」の文字以外、配置がまったく異なっている。そのため、ローマ字入力はバシバシできても、ロシア語入力となるとスピードがガタっと落ちる。ところがこの状態はロシア語を母語としない外国人ばかりではないようで、ロシア人もたいてい左右の人差し指でキーボードを見ながら文字を打つ。プロのタイピストは別として、一般のオフィスや銀行、飛行機のチケットカウンターなどでは、人差し指打法が主流である。 不思議なことに、本屋にはタイピングの本などあまり売られていない。タイピング練習用のゲームも見かけなかった。入力の速さよりもプログラムの理解や組み込みなどが重視されているようだ。 ためしにロシア人の前でローマ字入力による日本語打ちをやってみた。ブラインドタッチで機関銃のように打ち込み、さっと変換させるのを見ると、ほとんど100%のロシア人はその速さと漢字変換のめまぐるしさに驚いていたので、ちょっと優越感に浸ってしまった。

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22.03.09

ロシアの兵役

軍事力増強によって、強いロシアをよみがえらせようとする政府の方針。ところが、徴兵制を取りつづけている以上、軍隊内の規律や腐敗が一掃されたとはまだいいがたい。

2004年ごろだったか、ロシア軍内部で若い兵士たちが零下20度もあるところで十分な防寒服を着ないまま軍事訓練をさせられ、数人が肺炎で死亡という痛ましい事件があった。上官を相手取った訴訟も、おそらく遺族の泣き寝入りだろう。チェチェンに送られた兵士の母親で組織された「母親の会」は、長らく当局から押さえつけられた状態が続く。

そういう中で、できるだけ知り合いのロシア男性に兵役はどうだったか訊ねてみた。ほとんどはソ連時代に徴兵された世代で、独ソ戦に参加した高齢者以外、あまり多くを語らない(独ソ戦は勝利したので、苦労話と栄光が共存している)。

40代の一人はムルマンスクに送られ、死ぬほど寒い思いをしたとか。30代の一人は、軍ではなく治安部隊に所属させられ、極東のマガダンに行ったそうだ。どちらもモスクワからすごく遠い。

そしてもう一人の30代は「目が悪かった」ため兵役免除。軍関係の工場で就職するが、過酷な環境で健康を害したという。それでも兵役を免除されているため「退役軍人(ヴェテラン)」としての特典は受けられないのだそうだ。

いわゆる「下働き養成」としての徴兵制と、「純愛国者」を育てる現在の軍事教育制度。その待遇の乖離は限りなく大きく、人命の扱いも異なる。

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31.01.09

ロシア人はなぜ民族衣装を着ない

ロシアの民族衣装といえば、ルパシカ(ブラウス)、サラファン(ジャンパースカート、韓国のチマとほぼ同じ作り)。意外なことだが、これら「民族の伝統的服」を自前で持っている人は非常に少ない。おそらく日本人が和服を持っているパーセントより少ないだろう。

理由は主に「着る機会がないから」である。

一般にロシア人は冠婚葬祭や公式行事に伝統衣装を着ることはない。いわゆる普通の洋装で通す。では、伝統衣装を着るのはどういうときかというと、大方のロシア人にとって、それはロシア民謡を歌ったり楽器を演奏したりするとき、お祭りイベントに"出演"しているときなど「何かパフォーマンスをするとき」なのだそうだ。だから、「結婚式にサラファンを着ないの?」と尋ねると、「え??」という反応が帰ってくる。

一番伝統的衣装に近いスタイルをとっているのが、郊外や地方都市に住む「おばあちゃん」たちだ。彼女らはシャツとズロースの下着に分厚いタイツ、ルバシカと長いスカートをはき、DollSarafanredカーディガンを羽織っている。最後はプラトーク(スカーフ)で頭を覆って前結び。長靴のようなブーツを履く。ほとんど半で押したように同じ着こなしだ。

お土産市場へ行くと、サラファンやルバシカはけっこうな値段で売られている。外国人旅行客相手に、オーダーメイドを受け付けたり、実にいい商売をしている。和服なんかより安いんだから、ロシア人も伝統衣装をどんどん着たらよいのに、と思ってしまうがどうなんだろう。

Doll_back

Sarafanblue ちなみにサラファンの形状は、肩つり紐タイプやエプロンタイプ、ヨーク切り替えタイプなど、土地によって若干違いがある。リボンヤーンを多用したり、刺繍のほどこされているものほど高価。ルバシカは肩ではいである「ラグラン袖」タイプがほとんどである。

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28.09.08

いわゆる新興宗教集団

モスクワの新興宗教というと、一番に連想するのはハレ・クリシュナの集団。日本でもときどきお目にかかるが、モスクワだと注目度が違う。坊主頭に近い男女が、冬でも黄色いサリーのようなものをまとい、太鼓 を叩いて歌い踊っている。アルバート通りやプーシキン広場など、人が集まるところに出現する。1970年代にはすでにロシアに入ってきたとされているが、 経緯はよくわからない。

一方、オウム真理教の残党も生き残っている。2004年ごろは、プーシキン・カフェ付近に拠点があったそうだ。気功や指圧・マッサージなどを表看板としていたが、人の出入りがあまりにも激しく、昼夜を問わずうるさいので、同じ階の住人が警察に通報したらしい。しかし、捜査官の到着時にはすでにもぬけの殻だったという。郊外の工場跡地なども活動拠点らしいが、以前ほど派手な活動はしていない(と思われる)。

現在ロシア人にとって、宗教であり国民のアイデンティティのよりどころとなっているのはロシア正教会。国内で圧倒的優位を誇るロシア正教会は、新興宗教を「カルト」として糾弾している。しかしその裏では、相変わらず闇経済時代からの結びつきも取りざたされ、両関係の複雑さは杳として知れない。

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19.09.08

迷信と魔術

ロシア人は迷信深い。本当に唯物論や無神論を唱えたコミュニズムの国だったのかと疑いたくなるほどだ。

特に女性は占いをよく信じる。雑誌や新聞には必ずといっていいほど、今日の運勢が載っている。俗に言う「星占い」で主流。日本人が相手の血液型で性格の傾向をつかむように、ロシア人は相手のホロスコープをよく訊ねる。ただし、血液型占いはポピュラーではない。

秘密結社による降霊術の伝統があるので、今でも「こっくりさん」と同じような自動書記による占いも盛ん。自分の思いをかなえたいときに、プロの魔術師に依頼することもあるようだ。無料タウン誌などには、Магия(マジック)という項目がある。白魔術、黒魔術のどちらが専門か表記されているが、どんな人がやっているのか不明だ。さらに、極東の共和国などから来た「シャーマン」もいて、ロシア人も「ご神託」を聞きによくやってくるという。

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